マーケティング、エバンジェリズム、ときどき旅。

ホントに自分がなりたいのはマーケターかエバンジェリストか、はたまた旅人なのかを徒然に書いていくブログです。

火星(M・A・R・S)時代への不可避な流れを確信する -- Amazon re:MARS 2019 参戦記

Amazonが開催する初のAIカンファレンス」的な触れ込みで、Amazon re:MARS の開催を知ったのが、確かこのCNETのニュース。ということで1月頃ですね。

japan.cnet.com

この手の大型カンファレンスは、初回に「持ち札」を最も惜しみなく出してくるのと、コンセプトに忠実な内容(次年度以降は、拡大させなければいけないので、ピュア度より拡がりが重視されがち)になる傾向があるのは、長年裏方をやってきていたので確信がありました。つまり、AI市場に携わっている自分としては、「参加して間違いないカンファレンス」だと思い、3月のプレレジストレーション開始後に速攻で申し込みました。セッション内容はまだ詳しく出ていませんでしたが、JB(Jeff Bezos) の登壇があるというのも個人的には大きな動機。もしかしたら、このイベント名にひっかけて、JBが所有するBlue Origin での火星プロジェクトなんかも発表あるかも、いうことで期待値は高まる一方です。

カンファレンス名「MARS」の意味は?

MARS -- 火星と聞くと、多くの人がこの映画を思い浮かべるかもしれませんが、

www.youtube.com

このカンファレンス名のMARSは、火星を意味するのではなく、これから重要度が増す以下の4つの分野の頭文字から来ています。

  • MMachine Learning (機械学習
  • AAutomation(自動化
  • RRobotics (ロボティクス
  • SSpace(宇宙

AI(Artificial Intelligence)が頭文字に来ないところが、なかなか意味ありげではあります。

キーノートやセッション内容については後述しますが、それぞれが独立した分野というより、この「MARSの組み合わせ」が未来を創るのだ、というビジョンやユースケースフレームワーク等の紹介にあふれた場で、50になった自分でもワクワクする未來感、それもかなり手ごたえのある未来を感じられる場になってました。

会期は6月3日=火曜日の日中のワークショップから始まり、その夜に最初のキーノート、翌水曜日、木曜日は午前がキーノートで、午後にブレイクアウトセッション、最終日の金曜日はブレイクアウトセッション主体の、計4日間のカンファレンスです。あ、この手の大型カンファレンスにつきもののパーティーは、木曜日の夜に設定。場所はラスベガス郊外のサーキットということで、これまたアメリカンな感じで楽しみ。

話題のロボットSPOT登場、そしてAlexaと話すアイアンマン

もともと、月曜日入りして、時差ボケ調整しつつ、火曜日からの日程に臨む予定でしたが、マーケ支援で関わっている3サービス(Auth0 / CircleCI / Stripe)の記者会見を月曜日に東京で行うことになり、火曜日発に変更。ラスベガスの空港に火曜日15:00くらいについて、18:30~のキーノートに参加するという、ダイレクトコネクトな日程で参加することに。

 NRT → PDX → SLC → LAS と2回の乗り継ぎを経て、空港からホテルチェックイン、そしてカンファレンスでレジストレーションをすると、もう初日のキーノート開始の時間。ある意味、無駄のない移動だったとも言えます。

 

初日は比較的Roboticsに振った内容で、その中でもBoston Dynamics CEOの登壇内容が様々なロボットの進化の過程と、今後の流れを俯瞰して教えてくれてかなり理解が深まりました。そして、壇上にはリアルにSPOTという最新の自律型4足歩行の多目的ロボットが登場。ニュース等でなんどか見たことがありましたが、実物を見るとその動きの精巧さに驚きます(セッション後はなんと会場を少し「散歩」している姿も見られました)

f:id:hide69oz:20190609171752p:plain

ステージの模様は、こちらのYouTubeでもサマリーが見られますので、ぜひ。SPOTがステージ上で動く姿も見られます。

www.youtube.com

そしてセッション最後には、ロボットといえば(?)この人、アイアンマン役でお馴染みのロバート・ダウニーJrが登場。アイアンマンといえば、AIのジャービス(J.A.R.V.I.S)がいつもの相方ですが、このキーノートでは、Alexaとの会話で話が進行。それも(MARSといえば、の)マット・デイモンが来れなかったので、その代役扱いされるというコミカルなもの。この近さで、ロバート・ダウニーJrのステージが見れるだけでもかなりオトクなのに、Roboticsに関する話題と、最後にはビデオで出てくるマット・デイモンとの掛け合いつき。初日から、ちょっと豪華すぎるんじゃないの? という構成です。

f:id:hide69oz:20190609171919p:plain

MLがすべての基盤に

この初日のキーノートでも触れていたのですが、このre:MARS のキーノートを通じて繰り返し言われていたのは、MLがすべての基盤(foundation)になる、というメッセージです。で、AIはMLの上のレイヤーという概念。

f:id:hide69oz:20190609020459p:plain

※写真はDay3のキーノートでの、Amazon CTO, ワーナー先生のスライド。

AI関連のカンファレンスやセミナーでも、(自分がこれまで見た限りでは)MLとAIがきちんと分けられずに使われているシーンが多かったように思いますが、このレイヤー図はしっくりきます。MLはあくまでもモデルを作るための手法であり、必要に応じてその上に "Intelligent" な仕組みを実装したものがAIである、という考え方ですね。

シアトルで会ったアマゾンの人(本社勤務)に聞いた話ですが、社内のオールハンズでAIについて質問があった際に、「AIとMLは分けて考えるべき」とJBが即答したらしいので、re:MARS のために用意したスライド、というよりこの数年のアマゾンの社内での共通の理解がre:MARS の機会に外に出てきた、と考えたほうがいいでしょう。

AIについて語るときに、MLやDL(Deep Learning)などのモデル構築手法とIntelligenceがごっちゃになっていることが多いので、自分もこのレイヤーを使って説明するようにしたいなと思った次第です。

AIはヒューマンインテリジェンスではない

これは、Day2のキーノートで登壇したMITのスピーカーが言っていた言葉。AI ≠ Human Intelligenceというのは、考えてみれば当たり前のことかもしれないのですが、腹落ちした表現でした。日本語で「人工知能」というと、どうしても人間的なふるまい(感情面も)をするものというイメージが付きまといますが、MLやDLで得られたモデルを使って、目的やコンテキストに応じてIntelligent なふるまいをするアプリやロボットを指すと理解すれば、別に人間を模していないことは確かです。

MITのスピーカーの後に出てきたiRobot のCEOが、AI搭載のロボットは、Autonomous(自律型) --> Responsive(応答型) --> Collaborative(協調型) -->System(システム型)の順にCapability (可用性)が上がると説明していましたが、確かにその通りで、人間になろうとしているわけでは無いわけです。AI搭載のRoboticsは、まさにこのステップでより複雑な処理をIntelligentに行えるようになるでしょう。

f:id:hide69oz:20190609021630p:plain

データ量だけではなく、シミュレーションがモノを言う時代に

よりIntelligetになるためには、MLやDLでの「学習の量と質」が重要なわけですが、今回のre:MARSでは、この学習量と質を「データ量」×「シミュレーション量」で実現するものだ、というのが既に常識になっているように思いました。

ニュースにもなったアマゾンの独創的(6ローター+垂直離着陸+ほぼ水平飛行)な新型ドローンですが、これも実際のデータだけでなく、無数のシミュレーション作業を経て、実用化に向かっていることが紹介されていました。

このドローンについては、こちらの記事が参考になるかと。

japanese.engadget.com

AmazonでのML/DLの実用例である、Amazon GoやAmazon Robotics、Logisticsでも、こうしたシミュレーターが有効活用されている話が(惜しげもなく)公開されていました。これからはシミュレーター無しでは、勝負できない時代になりそうです。

RoboticsとMLの融合は不可避

今回は、冒頭で紹介したBoston Dynamics をはじめ、多数のロボットをまじかで見たり体験できる場としても、価値あるカンファレンスだったと思います。

こちらの記事に詳しく紹介されていますが、多種多様なロボットが会場に展示。

robotstart.info

どのロボットも、動きの制御にはMLやDLを使っており、もはや工場のラインにある単目的な産業用ロボットとは違う成長軌道にあるのがわかります。前述のシミュレーションの活用もあいまって、その進化スピードは速くなる一方なので、来年どのレベルまで上がっているか楽しみです。

 そして、ML/DL+Roboticsをより身近に体感できるDeepRacerも会場に「サーキット」が用意されて、ほぼ一日中タイムアタックが行われていました。どうも「ガチ勢」は、セッションにはほとんど出ずに、こちらのDeepRacer League に参加していた模様。

 

f:id:hide69oz:20190609023726p:plain

 尚、DeepRacer League は日本からも参加できますね。DL+Roboticsの学習をはじめたい方にはうってつけだと思います。詳しくは、コチラのアマゾンのサイトからご確認ください。

f:id:hide69oz:20190609141811p:plain

aws.amazon.com

生JB登場

最終日のキーノートのトリは、JBへのインタビューセッション。 自社イベントでも、JBがこうした場に出るのは、初回のre:Invent 2012 以来ではないかと思います。私としては、これまでのキーノートでのカバレッジが少なかったスペース分野の話題を期待していたのですが、少しBlue Origin と月の話が出た以外は、あまり深堀されませんでした。自分としては、先日JBが発表したスペースコロニーの話とかも出るかなと期待していたのですが、それも残念ながら語られずじまい。

japan.cnet.com

会場にはさすがにスペースコロニーの模型などはありませんでしたが、Blue Originの実物大モデルの展示がありました。私は時間がなくて中に入れなかった(予約制)のですが、こちらに動画も上がっていますので、ご参考までに。

www.youtube.com


そんな中でも、彼が今後注目すべき分野としてバイオテクノロジーを上げていたのは初耳でしたし、興味深かったですね。バイオテクノロジーも、ML/DLの恩恵を受けることはロボットやスペース同様間違いないところなので。

その他には、アマゾンのリーダーシッププリンシプルについての話や、10年後も変わらないことにフォーカスすべし、といった、いつも彼が話しているトピックが殆どだったので、ちょっと既視感多めではありましたが、多くの参加者によっては、生JBは初めてだったのではと思うので、良かったのではないかと。

エンドユーザーこそ、re:MARSに行くべき!

re:MARS に関しては、来年も開催されるかはまだアナウンスされていません。Amazon Go、Robotics、Rogistic等、これまで外向けに語られることが少なかった内容が、キーノートでVPクラスが続々登壇するだけでなく、ブレイクアウトセッションでも詳細に紹介されていて、今あるネタは出し切った気もする(その意味では、今回は相当オトクなカンファレンスだったと思います)のですが、次回もやるとなれば、今年を上回るネタは揃えてくるでしょうし、規模ももっと拡大するはずなので、展示エリアも含め更に大きくなると想像します。

今年感じた、スピーカーとの距離の近さや、ランチやパーティーでの快適度合い(re:Invent に比べると圧倒的に空いていた)は多少損なわれるかもしれませんが、アマゾンの製品アピールではなく、MARSなユースケースがこれだけ見られるイベントもそうそうないと思いますので、間違いなくおススメできると思います。MLやロボット関連の利用が、PoCレベルではなく、成長の原動力として既に実装されているという現実を多くの人が感じることが出来るはず。

そして、日本から参加する人はITベンダーの方より、むしろ実業をやっているエンドユーザーの方々(製造、小売り、ロジスティックス等)に参加いただきたいです。世界はどんどん先に進んでいる今、実業の方がITベンダーからの提案を待っていては、太刀打ちできないのは明確。自分の目で見て、考えて、行動できるようになるためにも、ぜひ実業の方の参加比率が高まることを期待しています。

今年参加した人たちとのネットワークも、このFacebookグループ(公開グループ設定)で見られますので、どんな人が参加していたか、皆がどんなアウトプットをしているかを見ていただけると、より臨場感が湧くと思います。

写真は、日本からの参加者有志によるネットワーキングディナーでの記念撮影。来年はもっと多くのMARSな人とネットワーキングできればと思います。

f:id:hide69oz:20190609172323p:plain