マーケティング、エバンジェリズム、ときどき旅。

ホントに自分がなりたいのはマーケターかエバンジェリストか、はたまた旅人なのかを徒然に書いていくブログです。

CtoC化するマーケティングとコミュニティ

※このブログは、コミュニティマーケティングAdvent Calender 2023 の12/1分のエントリーです。

adventar.org

2016年11月にコミュニティマーケティングを考えるコミュニティ=CMC_Meetup を立ち上げて、もう7年になります。そのころから、"Sell Through the Community" の考え方を軸に、コミュニティをマーケティングで活用することの価値をお伝えしてきたのですが、ここのところ少し行き詰まりを感じてきていたのも事実。

そんな状況から今年は次のステップへのトビラが開いた感があったので、そのあたり書いてみたいと思います。

何に行き詰まっていたのか?

オーディエンスの変化に、説明、いや説得方法を対応させる部分が大きいと思っています。これまでCMC_Meetup に参加する人は「コミュニティをやりたい」「コミュ二ティマーケティングで成果を出したい」という方が多数だったので、なぜコミュニティか?を説明する必要性が、比較的薄かったわけです。

なので、求められる情報がコミュニティマーケティングで成果を出すための設計方法(OWWH=Objective / Who / What / Howでよく説明している内容)とか、実際にコミュニティを運用するための基本方針(3つのレイヤー、3つのファースト、3つのベクトルで説明している内容)だったりしたわけです。どちらかというと手法の話ですね。

OWWHの説明で、よく使っているスライド

いや、これは今でもとても大事なんですが、最近はコミュニティマーケティングがより多くの企業で取り入られるようにになってきていて、コミュニティ施策に取り組む企業やステークホルダーが増えてきています。今年の2月には、そんな状況をポジティブにとらえて、こんなブログも書いています。

 

stilldayone.hatenablog.jp

コミュニティマーケティングは異端から先端へ!
上で書いた通り、コミュニティ施策に向き合う=顧客に向き合うことが不可欠なわけですし、LTV重視の昨今のビジネス戦略とも相性がいいことがわかります。
これは、コミュニティマーケティングは、もはや「異端」ではなく、マーケティングに必要なエッセンスのど真ん中な部分と深くつながっている。むしろ、「先端」ともいえる部分を担うのではと考えています。
今年あたりからは、コミュニティマーケティングが、異端から先端にポジションチェンジする時期ではないかと思っています。この考え方に賛同いただけたり、確かに!と思われる方は、CMC_Meetup の活動などで、ぜひご一緒できればと!

 

コミュニティマーケティングを検討している企業、組織が増えていること自体は、素晴らしいことなんですが、コミュニティマーケティングに懐疑的な、または特に思い入れがない人にも説明、説得する必要が増えることを意味しています。

そうなると、「コミュニティっていいよね」から説明するのは、むしろ悪手になりえます。コミュニティというコトバを使わずに、これが合理的、合目的な手法であることを説明できるといいわけですが、その突破口がなかなか見つけられなかった、というのが感じていた行き詰まり感の原因の一つ、でした。

「オレオレ理論」扱いからの脱却

もう一つの行き詰まり要素が、「オレオレ理論」扱い。私が過去経験したAWSの事例(JAWS-UG)や、コミュニティ界隈では有名な、SalesforceのTrailblazers、B2C/D2C業界では、ヤッホーブルーイングさんやベースフードさんの取り組みなど、コミュニティマーケティングやファンマーケティング施策の「成功事例」と呼ばれるものは多く出てきているのですが、

なかなか共通の成功要因があるとは理解されずに、「あの会社だから」とか、「○○さんがいたから」的な「特殊例」として扱われる風潮も少なくありません。

特に、私がJAWS-UGの事例を話してしまうと「オレオレ理論」と見られてしまい、懐疑的な人にはまったく刺さらない、という状況になります。いや、コミュニティマーケティングの概念が広まり始めた時期なら、「わかる人にだけわかってもらう(そして先に成功してもらう)」というやり方でもよかったのですが、普及期に来ているという状況ですと、そろそろ「オレオレ理論」扱いから脱却しなきゃいけない時期であるは間違いないです。

アカデミアでの出会い

昨今のリスキリングな流れに乗って、、、というわけではないんですが、昨年から、ちょこちょこと大学が提供している社会人向けのマーケティングコースや、MBAコースの「ダイジェスト」的なセッションを受講したりと、アカデミアの世界に触れる機会が増えてきました。受講の目的は、「知識を得たい」というだけでなく、「教え方を学ぶ」という視点もあって通い始めたのですが、そこで今回の行き詰まりを打破するヒントに出会いました。

この手のコースですと、実務家側とアカデミア側、双方の講師がいることがあるんですが、今回ヒントを得たのはアカデミア側の方の講義。正直、はじめは「事例が古いなー」とか「実務との距離が遠いなー」とかナナメに見てたんですが、だんだんと「既に実証された理論」を組み合わせて説明すると、納得感=説得力が高まる、ということに気が付きました。

(逆にいうと、どんなに著名な実務家が講義にきても、自分の経験則だけで講義が組まれると「オレオレ理論」に聞こえてしまう、というのも学びでした)

オレオレ理論を脱する、そして、コミュニティの良さや事例から説明するスタイルからの脱却を考えたときに、アカデミア側で使われている、先行研究や実証されたセオリーの組み合わせ、というのがヒントになったわけです。

 

デジタル時代のCtoCの情報フローの増加と購買行動への影響

幸い、CMC_Meetup 界隈には、MBAMOTで学んだ経験のある方がいらっしゃって、コミュニティマーケティングに関係しそうな参考文献をおススメいただける、というナイスな環境がありました。で、最近拠り所にしている論文がコチラ。

マーケティング・サイエンス Vol. 26 No. 1 2018 pp. 7 - 39
 「デジタルメディア環境下のC2Cインタラクション-研究動向の概観と展望」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/marketingscience/26/1/26_260104/_pdf/-char/ja

現在・早稲田大学 大学院の澁谷先生や慶応大学の山本先生などが共同で書かれたものです。内容を抜粋すると、こんな感じ。

 

CtoCでの情報発生、流通が、顧客(法人、個人とも)の想起形成や購買行動に大きく影響しているのは、皆さんも実感があると思いますが、その前提である「CtoCの情報フロー」が、デジタル時代に大きく進展していることについて研究された内容です。

ただ、この論文ですと、「発信者」と「受信者」の適切な出会いを増やす方法論までは踏み込んでいません(おそらく、実証する実験が難しい?)。しかし、コミュニティマーケティング界隈の方はピンときましたよね? そう、まさに「発信者」と「受信者」の出会いを、偶然から必然(は、言い過ぎかもですが)に変えるための器がコミュニティだという事に。

ちなみに、最近のニールセンの調査は、この増加するCtoCの情報フローが、広告や(いわゆる)インフルエンサーからの告知よりも、購買活動につながりやすいと報告しています。

prtimes.jp

これもポイントを抜粋すると、こんな内容です。

 

そういえば、AIDMA(アイドマ)で有名な購買行動モデルも、2005年以降はCtoCの情報フローを織り込んだものになっていました。最近出てきた購買行動モデルと、トラディショナルなAIDMAを比べてみると、こんな感じ。

AIDMA時代と違い、どのモデルも行動(Action / Participate)のあとに一つプロセスが追加されていることがわかります。そして、そのプロセスのイニシャルが、いずれも「S」なのがカギですね。購買後に、共有(Share)、満足(Satisfaction)、拡散(Spread)の「S」が起こり、それが次の人の購買を後押しする検索(Search)、確信(Conviction)、共感(Sympathize)、確認(Identify)の「元ネタ」になっている、という循環ファネル的構図が、どのモデルをみても共通で見てとれます。

尚、上記のモデルは、決してBtoC/DtoCなどのコンシューマー向けビジネスだけに当てはまるものではないです。むしろ購買鼓動にステークホルダーが多いBtoBのほうが、この影響度合いは大きいですね。法人顧客が購買行動に移る前に「想起集団」に入っていない製品、サービスは、そもそも選定から漏れてしまうといことも、調査で分かってきています。

markezine.jp

コミュニティがCtoCの情報フローに対応したマーケティングのカギに

上記のように、購買行動への影響度合いが増しているCtoCの情報フロー、自社製品・サービスに関する情報も組み込んでいきたいと考える人は多いはずですよね。それをする上では、以下を考える必要があります。

  • 増加するCtoCの情報フローのなかで、いかに自社製品・サービスに関する「発信者」と「受信者」が出会う確率を上げるか?
  • CtoCの情報フローのキモである「体験」「共感」が、自社製品・サービスについても生まれやすい、伝わりやすい環境を作ることができるか?
  • 顧客の「想起集団」に、自社製品・サービスが入りやすくするためには?

そう、ここで登場するのがコミュニティというわけです。特に、自社製品・サービスにとって適切な「発信者」と「受信者」が出会いやすくなるためには、そのためのコンテキスト設定がされたコミュニティの存在が特に重要になります。図で示すとこんな感じ。

このようにコミュニティが機能するためには、その場のコンテキスト(関心軸、方向性)が共有されているのが大前提で、その上で情報発信・流通が加速するための、心理的安全性=トラストが確保されている環境がカギになります。そして情報発生の頻度や流通量を増やすためのアウトプットを促す仕掛け、が組み合わさることで、効果が高まるわけです。逆に、これを意識しないまま、企業サイドが「コミュニティ」と称する器や場を作っても、十分に発火しません。(事実、そういう”自称”コミュニティも沢山目にしてきました)

いままでもCMC_Meetup などで訴求してきた、コンテキスト、トラスト、アウトプットの3つのファーストがやはり欠かせない要素になりますね。

New Place、New Approach

このブログの挿入スライドで気づかれた方も多いかと思いますが、この「デジタル時代の情報フローのCtoC化に対応したマーケティング手法としてのコミュニティ活用」のストーリーで、コミュニティマーケティングの説明スライドも、この1か月ほどでだいぶ一新しております。

このストーリーが、どの程度響くのかの確認や、更なるブラッシュアップのために、アウェイな場所も含め、これまでとは違う登壇機会に、どんどん出ていきたいなと。

手始めに、来週、WBS早稲田大学 大学院経営管理研究科) のMBAコースの授業(消費者行動論)の中で、このストーリーでご紹介してきます。MBAコースの皆さんに、果たして通用するか、今から楽しみ、です。


このMBAの授業でのフィードバックも、どこかでアウトプットできれば、と思っています。

皆さんのほうでも、この「CtoC化するマーケティングとコミュニティ」なストーリーを紹介する登壇機会があれば、お声がけいただけると嬉しいです!

 

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(2023/12/02追記)

コミュニティ参加者が、どのような動機でコミュニティに参加しているかの調査アンケート。前述のWBSで、まさにコミュニティマーケティング修士論文テーマにしている方がいるので、こちらでも共有です。

これもCtoCの情報フローとコミュニティの関係や、受信者から発信者になるメカニズムの裏付けになる調査だと思いますので、このブログに興味持った方はきっとこちらのアンケートも気になるハズ! アンケート回答者は「B2B製品のコミュニティ参加者」という制限はありますが、もしそれに該当していたらご協力を。有効回答していただいた先着200名の方には、1,000円のアマゾンギフトカードもいただけるようなので、お早めに!!

wasedaunivcampus.au1.qualtrics.com