マーケティング、エバンジェリズム、ときどき旅。

ホントに自分がなりたいのはマーケターかエバンジェリストか、はたまた旅人なのかを徒然に書いていくブログです。

VUIはK.I.T.T.を目指す -- AIの進化がVUIをゲームチェンジャーに

5月に参加した複数のイベント(Google I/O、INEVITABLE ja night #4、AWS Summit Tokyo)を通して、音声によるインターフェース・VUI(ボイス・ユーザー・インターフェース)を取り巻く今後の流れが見えてきた感があるのでブログにまとめておきます。

実はみんな知っているVUIの将来像

実はVUIは昔からTVや映画でよく見慣れた光景です。最近ではアベンジャーズのアイアンマンに搭載されている「J.A.R.V.I.S」なんかは有名ですし、私の年代だとナイト2000に搭載されている「K.I.T.T.」あたりが代表格でしょうか?

www.youtube.com

このレベルに達するには、人間の意図をくみ取って「会話」する力と、その結果をクルマ等のハードウェアをコントロールする仕組みが必要となるわけですが、以前書いたAIと自動運転の関係を考えるとハードウェアの制御部分は結構いけるかもしれません。

stilldayone.hatenablog.jp

では、肝心の「会話」力はどの程度まで来ているのか?

チューリングテストをパスするAIの「会話」力

初めての参加となったGoogle I/O 2018。本題とはそれますが、レジストレーションが屋外というのがカルフォルニア! もし雨が降ったらどうするの?と心配してしまいますが、それはまず無いってことなんでしょうね。

f:id:hide69oz:20180602112613j:plain

で、本番のキーノートも屋外のスタジアム。レジストレーションの出遅れから屋根がかからないBBQ席(こんがり焼ける、という意味)での参戦です。

f:id:hide69oz:20180602112733j:plain

初めて見る生ピチャイ氏によるキーノートでは、主要なGoogleサービスにAIがどんどん実装されているところを紹介。その中でも衝撃的だったのは、やはりこのデモではないでしょうか?

www.facebook.com

ハイライトは、(動画開始後30秒くらいから始まる)AIアシスタントがお店に「電話」をかけて、スケジュール調整をする「Google Duplex」のデモ部分。お店の人が「ちょっと待って」と言うのを受けて、AIが"Mm-hmm"と答えるところは、会場がドッと沸きました。これって、完全にお店の人は「人間」相手に会話していると思ってしまうクオリティです。もちろん、これはデモシナリオなので、想定されたシーン以外だとこうはうまくいかないケースもまだあるとは思います。が、急速に進む機械学習Googleさんはこの表現を好みますね)の効果で、どんどん人間らしく振舞えるようになるでしょう。チューリングテストを楽々とパスすると思われるこの会話クオリティへの反響は、好意的なものだけでなく、倫理的な疑問を投げかける声もあったようで、Google I/O後にこのような声明を出すことに。

www.itmedia.co.jp

AIが電話できる= APIがない相手とも連携可能に

Google Duplex」がいつ正式ローンチするかわかりませんが、これが実用化されるとIT化されていない店舗やサービスを「人手を介さず」に取り込むシステムやサービスを作れるようになるわけです。これって、これまでのIT領域を一気に拡張するゲームチェンジャー的存在で、それ故新しいサービス提供者が台頭してくるようになると思います。

VUIというと、スマートスピーカーのように人間側から話しかけてAIとのインタラクションが始まるイメージが強いですが、AI側から会話がスタートするインタラクションもこれからどんどん増えていくと思います。まさにK.I.T.T.の世界。

VUIと家電の将来

このGoogle I/OでのVUI周りのアップデート情報も取り入れつつ、VUIにフォーカスしたイベント・INEVITABLE ja night #4 ~VUI がもたらすUXの不可避な流れ~が5月23日に開催されました。

<当日参加いただいた方がツイートしてくれたグラレコ図>

f:id:hide69oz:20180602190655j:plain

togetter.com

このイベントで、最近パナソニックグループ入りで話題となったShiftall CEOの岩佐さん(元Cerevoと言ったほうがわかる方も多いかと)と、家電とVUIが今後どのような進化を辿るかについて対談させていただきました。実は岩佐さんに登壇をお願いしたのが、まさにこの「パナソニック出戻り」ニュースで渦中の時でしたね。岩佐さん、お忙しいところありがとうございました!

monoist.atmarkit.co.jp

 岩佐さんとの対談で、VUIによって、ITとインタラクションできるヒトやシーン(用途)が大幅に増えるという話を以下のゆでタマゴのような図で説明させてもらいました。

f:id:hide69oz:20180601193829p:plain

例えば、皆さんの周りでもキーボードがまだそんなに使えない小学生がAlexaやGoogle Homeをうまく使うシーン(最近は算数の宿題をスマートホームにやらせる猛者が現れている模様)や、運転中やPC作業中に「ながら作業」的にVUIを使っている状況(車載エコーは結構おススメ)に出会うことが増えていると思います。この図は、そうしたVUIによるITの利用シーンや利用者層の広がりを表したもので、岩佐さんにも「秀逸」と評していただきました。

家電業界にとっても、この図と同じようにVUIはもう当たり前に実装する機能となってきている、と岩佐さんが現状について説明いただいた後に、「AI+VUIのような大きな技術や設計思想の変更は、家電ベンチャーには大きなチャンス」と言われていたのがすごく響きました。こうした技術転換の時には、旧来の成功体験が優位に働かないことが多いので、これまでの積み上げをもつメーカーよりも、この新しい潮流への迅速な対応力があある組織のほうが有利とのこと。これは、10年くらい前にクラウドが出てきたときの、既存SIやISVの対応を振り返ってみると、うなずける話です。

岩佐さんには、セッション登壇のみならず、INEVITABLE TVYouTubeチャンネルでもVUIについてお話いただいていますので、こちらもご覧いただければと。

www.youtube.com

家電からビジネスへ、そしてエコシステムのガラガラポン

そして、5月末に開催されたAWS Summit Tokyo 2018。この中で個人的に注目していたのがAlexa関連の展示やセッション。正確にはAlexaやAVS(Alexa Voice Service) AWSとは別組織のサービスやテクノロジーということになりますが、AWSとのインテグレーション範囲も多く、実際ユーザやインテグレーターからすると区別して扱う理由がないポジションにあります。なので、AWS Summit でもAlexa周り展示やセッションがたくさんあるのも当然かなと。

余談ですが、AWS時代のチームメンバーがAlexaチームに移籍していりして、Amazon内でもAlexa部門の人気が高いことがうかがえます。このあたりのリソース移動の柔軟さもAmazonの強味ですね。

展示エリア奥には、ホームユースとビジネスユースを想定したショウルーム的な体験デモコーナーもありました。お金かかってます!

注目は上の動画でも後半に出てくるビジネスユース(Alexa for Business) のデモ。今回はオフィスでの想定ですが、VUI特性を生かしてもっとパブリックなスペースや、キーボード利用が難しい現場(工事現場)なんかにも適用範囲が広がると思います。そうするとリビング利用を想定しているエコーでは雑然とした環境で使うのはちょっと難しそうで、AlexaやAVSと連動する新しいデバイスの必要性が出てくるかと。ただし、利用用途やクラウドAI側(音声認識力や会話力、連携するスキルの種類、など)の急激な変化に対応する力がないと、いいハードが出てこないように思います。ちょっと現場で聞いた話だと、ハードを作るまえに騒音のレベルや利用用途等を完全にスペックが固まる前提での開発(そして後戻りやピポットができない)体制のメーカーが多いらしく、それだと成功しない感がありますね。岩佐さんが言っていたように早いサイクルでアジリティ高く量産品(←試作品ではないところがポイント)が作れるメーカーに商機と勝機が来るように思います。

以前は、こうした新しい技術の流れが出てきたときは、既存ハードメーカー間で共通規格の綱引きが多く行われてきたわけですが、いまやWebと同じ文脈でハード回りの仕様もどんどんオープンに出てくるのも、以前では考えられない状況ですね。Google I/O前日に1.0が発表されたAndoroid Things のような開発キットはまさに新しいエコシステム構築の象徴のようなモデルかと。

jp.techcrunch.com

大きい者ではなく、速い者が勝つ時代

VUIを流行りのスマートスピーカーの技術とみていると、流れを見誤まりますね。クラウドAIの進歩と、次々と出てくるユースケースに対応したVUIハードウェアの開発がますます重要になるのは間違いないですし、ハードウェアの開発や販売を巡るエコシステムも大きく変わっていくのは不可避な流れかと。まさに「大きいものが小さいものに勝つ」のではなく、「速いものが遅いものに勝つ」ユニ・チャーム 高原社長の書籍での言葉)時代の到来といえます。

エコシステムの見極めと、動きの速さが新しい勝者を生む時代、楽しみになってきました! そしてナイト2000なモビリティはいつ出てくるのか、期待です。

とりあえず、雰囲気だけでも味わうためにこのキットをつけてみようかな。

middle-edge.jp