マーケティング、エバンジェリズム、ときどき旅。

ホントに自分がなりたいのはマーケターかエバンジェリストか、はたまた旅人なのかを徒然に書いていくブログです。

Amazon Goは「無人コンビニ」か?

アマゾンがシアトルで運営している「オフライン」店舗 Amazon Goが、2018年1月下旬からついに一般顧客でも利用できるようになりました。 長いβ期間(この期間中はアマゾン社員のみ利用可能だった)を経て、多くの人の関心を呼んでいたこともあり、早くも体験記事などが沢山でています。これらを読むと一通りのことはわかった気になるのですが、やはりこの手の新しい概念のものは実際に試してみないと得られないことも多いので、この週末にさくっと行ってみてきました。以下、自分が体験したこと(事実)と、そこから考えられるアマゾンの思惑(これは私の仮説)について書いてみます。

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Amazon GoへGo!

シアトルのダウンタウンはここ数年ですっかり「アマゾンタウン」の色が濃くなりました。自分がAWSに在籍していた時はまだ建設中だったAmazon Spheresも完成し、今までになくHQ的なアイコン感があります。

https://www.instagram.com/p/Be-YJ3qjuEN/

Amazon Spheres.
このAmazon Spheres の隣(どちらもアマゾンのHQビルに隣接)に、Amazon Go があります。よく日本で「無人コンビニ」として報道されていますが、確かに品ぞろえや広さ的にはスーパーというより(日本サイズより)少し広めのコンビニといった大きさ。

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徹底した「NO LINE」の仕組み

Amazon Goに入店するには事前にAmazon Goのアプリをスマホにダウンロードし、そこにamazon.comのアカウントとクレジットカードを紐づければOKです(amazon.co.jpのアカウントだとうまく行きませんでした)。これが完了するとアプリにQRコードが出てくるので、これを入り口ゲートのバーコード読み取り口に読み込ませればゲートが開いて店内に入れます。ゲート前でオレンジ色のショッピングバッグを配っているので、手持ちの袋がなければこれを受け取って店内に入りましょう。

尚、今回一人だったので試せていないですが、一人がこのAmazon Goのアプリを持っていれば、同じQRコードを使って一人ずつゲートを通すことで、複数人で入店することも可能です。

ゲートを出る時には、こうしたQRコードをかざすなどの作業もいりません。ゲートに近づくとストッパーが自動的に開いて、そのまま外に出られます。もちろんバリアフリー

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なので、外に出る時にもたつく人が出たり、列ができたりすることはまずない構造になっています。まさにNO LINE至上主義。

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店内の様子

初日は木曜日の夕方だったのですが、通常の買い物客以上に「視察」に来ているっぽい人たちも多く、自分以外にも店内写真を撮りまくっている人たちが沢山いました(日本からのグループも)。興味深いのは、モノを買うよりも写真撮影に熱中する来店者に対して(見に行った2月9日現在)撮影禁止とかの措置が一切ないこと。店内のどこを撮影しても、ノウハウや技術流出が起こらないというアマゾン側の強い自信がうかがえます。

ちなみに翌朝(金曜日早朝7:00)オープンにあわせてもう一度訪ねてみると、さすがに視察やカメラをもった顧客はいなくて、出勤前に朝ごはんやランチ用に買っていく「普通使い」の顧客がほとんどです。


前の日は気づかなかったのですが、ゲートを出たところにはレンジ、電源、Wifiが揃ったイートインコーナーもあり、買ったものをそこで温めたり、食べたりすることができます。

品揃えは、サンドイッチなどの調理パンや総菜、スナック、飲料品(奥のほうにはワインコーナーも)などに加えDinner for 2 in about 30 minutes (30分で用意できる2人分の夕食)というキャッチの「Dinner Meal Kit」(夕食キット)も多めにおいていました。客層としてはシングル、またはDINKS向けっぽい感じです。


また、一部にはアマゾンが傘下におさめたばかりのWhole Foodsのセレクションのコーナーや、Amazon Go限定のマグカップ、ボトル、チョコレート等、お土産を意識したものも用意されています。

アマゾンなので、安さをアピールするPopとかあるイメージを持っていましたが、そういう安売り感は感じず、わりとハイセンスなイメージ。

無人コンビニ」ではない

日本での報道を見ると、「レジがない」とか「無人コンビニ」といった、省力化によせた仕組みのように報道されますが、実際は結構人がいます。まず商品の棚入れは人がやっていますし、接客をするメンバーの一定数店内に常駐していますし(時にはワインコーナーにソムリエがいることもあるらしい)、店の外にも、Amazon Goの使い方の説明を兼ねて、ショッピングバッグを配る人が常時2名以上配置されています。

なので、確かにレジに人はいらなくなっているのですが、その分「接客」にリソースを振り分けている印象ですね。また、アメリカの一般のコンビニやスーパーと比べると明らかに店員の質が良いです。一部の人はアマゾンの正社員であることを示す、通称「ブルーバッジ」をつけていたので、現在はそれなりのメンバーを配置していると考えられます。

どのように「購入」を判断するか

このあたりの技術的な解説は、既に多くの記事(推測も含む)が出ているので、ここで深堀しないですが、いわゆるRFIDのように商品側に何かデバイスを付けて管理する、という仕組みではなく、入店した人の動きをカメラで追って、その行動を解析することで、「誰が何を買ったか」を判定する仕組みになっています。
「どの商品を」棚から「誰が」とったか、が購買行動の単位となりますので、棚からとったあとに他の人に商品を渡しても、会計は棚からとった人に紐づきます。なので、その時点で「購買」が終わっているので、そのあと自分のザックにしまおうが、手に持ったまま店を出ようが関係ないわけですね。これだとゲートを出るところがスムーズになりますし、もっというと出口には(誰が通過したかをカメラで認識できれば)ゲートさえも必要ないと言えます。

もちろん、棚に商品を戻したら、購入状態がキャンセルされます。考え方としてはEコマースでカートに商品を入れたり出したりするようなイメージですね。

Amazon Goが持つビジネスインパク

顧客にとっては、買い物体験の向上が一番のメリットとなります。レジ待ちもなく、キャッシュレス(カードを出す必要さえもない)、そして店員の対応もいいので、品ぞろえの問題や大きな価格差がなければ、間違いなくAmazon Goに通うようになります。これは体験したからこそ、自信をもって言えるところです。

では、事業者にはどのようなインパクトがあるでしょうか? Amazonがどう内部でこの仕組みを使おうとしているのか、オフィシャルに聞いたわけでもないので、ここからは完全に私の仮説ですが、自分が知っているアマゾンの企業文化と照らしあわせて下記のとおり推測してみます。

■「買われなかった商品」情報の取得
今回のAmazon Goの仕組みの最大のポイントがココだと思っています。Eコマースでは、「誰が何を買ったか」、以上に、「誰が何を買わなかったか」の情報が重要です。たとえば、商品ページに何度も訪問しているのに買わなかったり、一度カートに入れたのに最終的に買わなかったり、というのはそのブロッカー(値段、デザイン、機能など)が取り除かれれば購入される確率がグッと上がります。で、このEコマースでは当たり前だった「買われなかった商品」の情報が、このAmazon Goの仕組みではオフラインの店舗でもわかるようになります。もちろん、このデータが取れてもその解析方法、利用方法が分からないと「宝の持ち腐れ」となるわけですが、世界一のEコマース企業であるアマゾンであれば、今までのビジネスモデルと全く同じなので、苦も無くこのデータを活用できるようになるでしょう。

■顧客とのエンゲージメントの強化
顧客のAmazon Goへの来店頻度、滞在時間、購入履歴(+購入しなかった履歴)がきちんとわかるようになるので、これもEコマース同様のきめ細かいOne to Oneのオファリングができるようになります。

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今は実装されていないと思いますが、店内に入ったタイミングで個別に商品のリコメンドをすることもできます。これまでは一人一人の来店者に合わせた対応というのを、大規模店舗で行うのが難しかったわけですが、Amazon Goの仕組みならできますね。

また、レジ打ちにいままでかかっていた人員を、店内でのオフラインでの接客に当てることができるので、オンライン、オフラインの両面から顧客とのエンゲージメントを高めることができます。

■「招かれざる客」対策
どの業界もLTVをどう高めるか、が重要な課題になっています。逆にいうと万引きやクレーマーなどの「招かれざる客」は極力排除したいわけですが、Amazon Goなら簡単ですね。
Amazon Goで商品をとって店の外に出ると、数分で何を買ったか、のレシートがアプリで確認できますが、ここで「買っていない」商品ということで、返金を要求することもできるようになっています。調子にのって、買ったものもどんどん返金を要求してくる顧客がいれば、そのIDでは入店できないようにするだけでよいので、「招かれざる客」対策も、これまで以上に簡単にできるわけです。

■スケーラビリティ
Amazon Goでは商品棚の前の通路の天井部分に無数のカメラがあります。このカメラと商品棚のセットを1ユニットとすると、理論上はどこまでも店を大きくすることができます
もし、接客側にリソースを割かず、省力化の方向にこの技術を使えば、ゲート入口で応対する人と(数人)、商品の棚入れをする最小構成メンバーだけで大規模店舗を回せるようになる可能性があり、これまでの店舗での人員コストや、ピーク時にあわせたレジ打ち人員のシフト管理コストなどを削減できることになります。

なぜアマゾンはこのモデルを試しているのか

ビジネスに勝つには、相手の土俵ではなく、自分の土俵で勝負する、つまり自分に有利なルールで戦うほうが当然強いわけです。私は、アマゾンがこのAmazon Goのモデルで、オフラインでの小売ビジネスでのルールを変える、ゲームチャンジャ―になることを目指しているのだと考えています。「既存事業者が本質に気が付かないうちに、新たなビジネスルールを早期に確立」する、というアプローチです。

Amazon Goのようなモデルを現実のものとするには、最先端の画像認識と行動解析技術、およびそのML(機械学習)やDL(深層学習)などのAI技術の実装と運用力、そしてモノにするまでの期間の経済的体力が必要です。この技術投資や運用力をアマゾン以上にもっている企業は、現時点でそう多くはありません。なので、技術的、資金的に競争相手が少ない今の段階で(他の企業がこのモデルのメリットに気が付く前に)開発投資をし、今後の多店舗展開でこの開発コスト、運用コストを回収しながら、多くのフィードバックループを回してビジネスモデルを確立することを目指すと思います。このスピードが速ければければ早いほど、先行者メリットが享受できます。

技術的には、このモデルは映像データが入力値なので、今までのように多言語対応による追加コストも発生しにくいので、世界展開のブロッカーも少ない可能性があります。

既存の小売企業がこのモデルの優位性に気が付いて、後から開発をスタートしても追いつける企業が非常に少ない、という、かつてアマゾンがクラウド事業(AWS)で、IT業界に起こした変革と同じ構図になる可能性が高いと思います。

Software is eating everything!

Amazon Goの仕組みは、これまでのハード的な投資や、店長や発注者の経験、店のオペレーションマニュアルなどの人的スキルが重要だった小売り店舗運営を、ソフトウェア側がかなりの部分までカバーできるようになることを意味します。そして、その範囲や質は、不眠不休で学習し続ける(システムなので当たり前ですが)ML(機械学習)/DL(深層学習)で、どんどん拡大、向上していくので、この仕組みを持っている事業者ともっていない事業者では差が開く一方になりますね。このソフトウェア側のアプローチが、ハードウェア投資力を凌駕するという流れを理解しないと、ことの本質が見えづらくなります。もし、これからAmazon Goを視察に行く方は、無人コンビニ」という報道からくる低コスト店舗のイメージを捨てて、その背景にある戦略を探る視点で見ると、気づきが多くなると思います。このブログが、そんな皆さんのご参考になれば、幸いです。

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※2/14追記:道中、店内でのツイートまとめを追記しました。ライブ感ある(?)ほうが良い方はこちらもお読みいただければと。

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