5月のCMC_Meetup Tokyo Vol.9にカスタマーサクセスの伝道師:岡田奈津子さんに登壇いただいて以来、カスタマーサクセスとコミュニティの関係についていろんな会社やポジションの人と話す機会がありました。その中で、なぜこの二つがXaaS系の「サブスクリプションビジネス」に重要なのかを考えていたのですが、サブスクリプションのターボのような存在だと確信してきたので、自分なりに言語化してみるとこにします。
※写真はイメージです。
事例:AWSにおけるコミュニティとカスタマーサクセス
まず、コミュニティとカスタマーサクセスがどのように機能していたか、サブスクリプションビジネス(従量課金ですが、モデルとしては間違いなくサブスクリプションです)では自分の在籍期間が一番長いAWSを例にファクトを見てみます。
私の在籍時には「コミュニティマネージャー」というポジションはAWS(ジャパン)にはありませんでたが、そのロールは一人マーケ時代の私や、歴代エバンジェリストの人が担当してきてJAWS-UGというコミュニティが出来上がっているので、ここは機能していたといえるでしょう。余談ですが、JAWS-UGの昨年(2017年)の活動実績は
- 勉強会開催数:約260回
- のべ参加人数:約9,300名
と、まさに自走するコミュニティの鏡と言える規模に成長しています。
もう一つの「カスタマーサクセス」についてはどうでしょう? 私が在籍中(2009年12月~2016年8月)のAWSには実は「カスタマーサクセス」というポジションは存在していませんでした。先日関係者に確認したところでは、2018年6月時点でもポジションや部署としては存在していないようです。では、「カスタマーサクセス」無しで、AWSはクラウドのサブスクリプションビジネスで今のような大きな市場シェアを取ることができたのでしょうか? 答えはもちろんNO。ちゃんと「カスタマーサクセス」を実行できる人やチームがいたのです。
「腕っぷしの強い営業」を採らなかったAWS
その中心となっていたのは、通常のサポートチームに加え、「営業」と、そこを技術的に助ける「SA(ソリューションアーキテクト)」のコンビネーションでした。それまでの(特に外資IT系全般の)良い営業像とは売り上げを上げられる人を指し、ハードウェアやソフトウェアライセンス等の売り切り系の製品の場合は、お客様が「使い始める」までが勝負でした。なので、導入後にハードやソフトがどれだけ使われるかには関心がいかない(もう代金は回収してしまっているので、当たり前といえば当たり前)構図となります。一方、AWSの場合はどうだったか? いくらお客様がEC2やS3を「使う」と言ってくれても、その時点では1銭にもなりません。実際にアプリケーションやサービスがAWS上で稼働し、その規模が大きくならないと(少なくとも継続利用されないと)売り上げが上がらないのです。そうなると、ワンショットでの導入金額ではなく、MRR(月々どのくらい使っていただけるか)や、LTV(どれだけ長く、たくさん使っていただけるか)でしか評価されません。となると、お客様のAWS導入プロジェクトや、AWS上で展開するビジネスが「成功」しなければ、MRRもLTVも上がらないので、営業とSAのチームは、お客様と伴走する力が重要になるわけです。
これは営業的には大変な仕事です。なぜなら導入を開始したお客様が増えれば増えるほど、「伴走」しなければいけない相手も増え続けるから、です。その一方で、新たなお客様の開拓もしなければいけません。そのためにはお客様に早く成功していただき、「自走」を促さなければならない。場合によっては、一時的に売り上げが下がっても、お客様に長く使っていただくために、よりコストの安い構成を提案することも日常茶飯事(AWS Trusted Advisor はこれがサービス化したもの)です。これらの活動は、いわゆる売り切りタイプの営業には向かないスタイルです。なので、私がAWSの営業ポジションの採用にも深くかかわっていたころは、「一発大きな契約をまとめる」方向に走りがちな腕っぷしの強い営業より、お客様と伴走できて、自走をお流せるタイプの営業の方を採るように心がけていました(もちろんそれだけでは採用になりませんが)。
逆に言うといわゆるライセンス売り切りと、クラウドのサブスクリプションを、同一の営業が同一のお客様(やマーケット)にするという体制は、私の経験からはかなり難しいように思います。
スケールするために営業とカスタマーサクセスの機能を分ける
上記のように、お客様と伴走できるタイプのサブスクリプションビジネスにあった営業チームをそろえ続けるのも一つのモデルですが、そうした人材が無尽蔵にいるわけではないので、どこかで伴走の部分を分けたほうが、組織的にはスケールしやすくなると考えられます。おそらく、ここが「カスタマーサクセス」という部門やロールに急速にスポットライトが当たり始めている背景かと思います。
カスタマーサクセスの組織に求められること、については、岡田先生のこちらの資料に一度目を通すとよいかと思います。
このプレゼンがあったミートアップの内容はコチラを。
レポートもあります。
詳しくは資料やツイートを見ていただくとよいのですが、カスタマーサクセスにとって重要なポイントを5つあげるとすると
- カスタマーサクセスは顧客と「伴走」しても良いが、「代走」してはいけない。なぜなら最終的には顧客に「自走」してもらう必要があるから
- カスタマーサクセスは「受け身」ではできない。顧客に「先回り」する力、体制が必要
- カスタマーサクセスのKPIは契約継続率(売上数字は営業のKPI)
- カスタマーサクセス対象の顧客効率的にカバーするために、ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの3つに分類(テックタッチでボリュームゾーンをカバーできることが前提)
- カスタマーサクセスは経営側のコミットが重要(XaaSビジネスは特に)
あたりに集約できそうです。
ちなみに、「ウチにはもうカスタマーサクセスの組織があるよ」という方、スライド内の「カスタマーサクセスが陥りやすい課題4選」に眼を通してください。
①知見の俗人化:カスタマーサクセス担当がやめると顧客もやめる問題。→チームや仕組みでの対応必須
②業務の肥大化:特に東京は顧客に「会いに行ける」距離なので、ついつい会いに行ってしまう→スケールしない。テックを使おう
③組織の形骸化:カスタマーサクセス部門の名前がついていても、実態はカスタマサポートだったり、KPIを持っていなかったり、営業の下にカスタマーサクセスがついていたり。→名が体を表す体制に
④方針の迷走化:発生場所は経営より ←うむ案件
けっこう当てはまる組織が多いと思いますよ。
コミュニティマーケティングがカスタマーサクセスを必要とする理由
コミュニティマーケティングについては、自分のAWSでの経験をもとに、この3年ほどいろんなところでお話してきました。2016年に立ち上げたコミュニティマーケティングを考えるコミュニティ= CMC_Meetup のFacebookグループには、今や1,200名を超える方が参加いただいていますし、わかりやすい解説がマンガになるほど認知が上がってきています。
このコミュニティマーケティングを始める上で、欠かせないのが「ファン」の存在です。いろんな会社でコミュニティマーケティングを始めたいという相談を受けるのですが、思いのほか「ファンが見つからない」「ファンの育て方がわからない」という問題に直面することが多いです。実は、このファンを効率的に作りだす仕組みが「カスタマーサクセス」であると理解すると、コミュニティマーケティングとカスタマーサクセスが深い関係にあることがわかります。
AWSにはカスタマーサクセス部門はありませんでしたが、初期の営業+SAのチームがカスタマーサクセスを実行してくれていたおかげで、継続的にAWSのファンが生み出されていたという事実があります。で、このファンの人たちがコミュニティの1st ピンになることによって、コミュニティ活動が加速されるという関係性にありました。この仕組みをコピーしようとするのであれば、カスタマーサクセス部門がファンを量産し、コミュニティマーケティング担当者が、ファンを起点にコミュニティ拡大を図るという体制を作るのがもっとも効率的だと思います。
熱量の高いファンが、コミュニティを通じて見込み顧客に対するデマンドジェネレーション(自分ゴト化)を活発に行うことで、その後の新規顧客獲得をスムースにしたり、既存顧客に対してより良いユースケース紹介することで、クロスセル、アップセルの促進やチャーン防止を進め、MRR、LTV拡大に寄与するようになります。ちょうど排気ガスを利用して出力向上を実現するクルマのターボエンジンのように、マーケティングファネルの途中に過給機が付いているイメージ。図にするとこのようなモデルになりますね。
コミュニティとカスタマーサクセスの「ターボ効果」
実際XaaSのビジネスをしている会社を見てみると、コミュニティマーケティングとカスタマーサクセスの両方の機能を備えていないところもまだまだ多いようです。その場合、従来のマーケティングファネル主体で案件化を進めることになりますが、売り切りビジネスと同様のファネルだと、サブスクリプションでもっとも重要なKPIであるチャーン防止も、カスタマーサクセスの助けなしで取り組みことになります。また、カスタマーサクセスがいないと、前述の通り「ファンが見つからない問題」に直面することも多そうです。結果、ターボのないエンジンと同じで、サブスクリプションビジネスの加速力に大きな差が出ると考えられます。
コミュニティとカスタマーサクセス、この二つの機能の連動がもたらすターボ効果は、サブスクリプションビジネスにおいて、とても有効だと思います。サブスクリプションビジネスのオーナーには、このターボの導入検討をおススメします。