マーケティング、エバンジェリズム、ときどき旅。

ホントに自分がなりたいのはマーケターかエバンジェリストか、はたまた旅人なのかを徒然に書いていくブログです。

ブログの集合知で紐解く、コミュニティマーケティングの躓きポイント「レイヤー構造の落とし穴」

コミュニティマーケティング界隈の方は、アウトプットファーストなマインドの方が多いので、ブログの流通量はもともとあるのですが、特に12月はアドベントカレンダー時期ということもあり、いつも以上に、様々な視点で皆さんが知見をブログにしてくれる、まさに「ボーナスタイム」。

今回はそんなボーナスタイムな皆さんのブログの内容を借用しつつ、コミュニティマーケティングを実践する際におこりがちな(結構大きめな)躓きポイントの一つ、レイヤー構造にまつわる混乱や課題について、書いてみようと思います。

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尚、ここでお話するコミュニティとは、企業において、最終的にそのビジネスの成長に寄与するコミュニティのお話としてお読みいただければと。

趣味のコミュニティや、意図的にクローズドで運営するコミュニティもあり、その場合はステークホルダーや、成功・失敗の基準が大きく異なる(共通項ももちろん多いですが)ので、ここでは対象にしていません。

コミュニティマーケティングの光と影

JAWS-UGをはじめとして、ビジネスコミュニティの成功例は増えてきています。JAWS-UGはこのコロナ禍でもオンラインへのリフト&シフトをうまくやっていますね。このグラフ一つ見てもすごいな、と思います。

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JAWS-UG 勉強会開催数と申込人数の推移

note.com

そして、ビジネスサイドにその価値を理解され、2022年もどんどんコミュニティ施策をやっていく宣言をしているSmartHRさんのように、勢いのあるビジネスが、コミュニティをうまく活用している事例も増えてきています。

2022年は、さらにセメます。

これまでは、イベント活動を中心にコミュニティの成長を進めてきましたが、オンラインコミュニティも立ち上げ予定です。

note.com

更に、IT業界やB2B企業以外でも、カインズさんが高家社長自ら自社ビジネスにおけるコミュニティの重要性をセミナーでお話されたり、コミュニティ施策を対外的に発表したりと、広がりを見せています。

毎日を明るく楽しいものにすることを目指す「DIYer100 万人プロジェクト」では、店舗とオンラインを融合させた、カインズならではの DIY コミュニティ「Cainz DIY Square」を通じてDIY仲間同士の交流を促進し、DIY で得られる新しい体験や価値観をさらに豊かなものとするべくサービスを提供しています。

www.cainz.co.jp

一方で、こうした成功例や勢いを横目にしつつスタートしたビジネスコミュニティが、なかなか「成功」に結びつかないケースも見られます。上記のような成功事例が流通し、コミュニティマーケティングへの期待値があがってしまっていることで、いわゆる幻滅期に差し掛かっていることもあるかと思います。

markezine.jp

ですが、実際、私のところに相談に来られる方や、CMC_Meetup を通じて見聞きする事例から思うことは、その混乱や課題の多くは、コミュニティマーケティングに関係するビジネスがどんな「レイヤー構造」にあるのかの理解が不足していることから起きているのではないか、ということです。

ビジネスのレイヤー構造を整理するOWWHモデル

コミュニティマーケティングに限らず、企業でビジネスに寄与、関与するコトを起こす場合、ほとんどは下記のチャート図で説明がつくはずです。私はコレをOWWH(=Objective→Who/What/How)モデルと呼んでいて、パラレルマーケティング先のチームなどでも、このチャートを使ってビジネスのゴール、勝利条件(Objective)と、顧客設定(Who)や訴求メッセージ(What)、マーケティングをはじめとする各種施策(How)の紐づけや解像度があっているかをチェックしています。

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OWWHモデル

これを見ると、まずはObjectiveありき、のレイヤー構造であることがわかります。極端に言うと、Objectiveに紐づかない施策や顧客とのコミュニケーションは極力少ない方がリソースや予算上は良いということになります。

会社内でコミュニティの立ち上げや効果について説明するときも、基本的にはこの相関図で説明できるはずですが、コミュニティ運営の現場でよく言われる

  • コミュニティに売り込まない
  • 参加ハードルは低く
  • 参加者に楽しんでもらうことが重要

などを、社内レポートする際にも説明したりして、社内のステークホルダー達から共感や合意が得られないことが多いようです。

それはそうですよね。きっとこれを聞いた社内の他部門からは →のギモンが湧くはずです。

  • コミュニティに売り込まない → いつビジネスに寄与するの?
  • 参加ハードルは低く → お客様にならない人にもリソース投入するの?
  • 参加者に楽しんでもらうことが重要 → いつビジネスに寄与するの?(再)

これらの指針は、「コミュニティを運営する」現場の姿勢や方針としては、全く間違ってはいません。この逆をやると当然のようにコミュニティ運営そのものもうまくいかないでしょう。

こちらの記事にあるように「参加ハードルの低さ」と「参加して楽しい」は、コミュニティ参加者の増加や定着に欠かせない要素です。

—北川さんがコミュニティに参加するスタンスを教えてください。

北川氏
JAWS-UG に限らず『面白そうだと思えばどこにでも』みたいな部分はありますね。もう本当にいろんな集まりにひょっこり現れるので『ここにもいたか』と言われることがよくあります (笑) (後略)」

aws.amazon.com

 

ですが、「コミュ二ティの運営スキル」と「コミュニティとビジネスのゴールをマッチさせる」は異なるレイヤーの話であり、社内のステークホルダーが求めているのは、当然後者の話のはず。では、後者がうまく説明できないのはなぜか?

コミュニティ運営を「正しく」やれば、ビジネスの効果が出るわけではない

現場のコミュニティマネージャーの人と会話すると、コミュニティ運営における、ある種の「型」を正しく実行しようとする傾向があるようです。実際、質問される内容も「(AWSJAWS-UGやセールスフォースのTrailbrazerで)うまくいっているオペレーションは何か?」という、運営手法にまつわるものが多く、「なぜそういうオペレーションになっているのか?」というWhyの部分はあまり質問してきません

AWSやセールスフォースと全く同じObjectiveやWho/Whatのビジネスなら、JAWS-UGやTrailbrazerと同じやり方をまねる意味があると思いますが、実際にはそういう企業は少ないですね。そして特定のコミュニティ運営手法のみを真似るというのも、応用範囲は狭くなります。

そうならないためには、「なぜコミュニティをやるのか」「どういう状態になれば、コミュニティが成功しているといえるのか」を会社視点、経営視点でクリアにする必要があります。そのうえで、コミュニティメンバーにとっても参加したくなるゴールを設定する。これは何も、コミュニティ運営経験の長さで解決することではなく、そこに問いを立てる姿勢が必要ですね。

コミュニティマネジメント歴の長い、プリズムテックの一葉さんもこうおっしゃってます。

ものすごくお恥ずかしい話、「なぜ企業でコミュニティ施策が必要とされているのか」、自分でもわからなくなる瞬間が多々ありました😿
理屈はわかるぞ。コミュマネ視点とメンバー視点はわかる。けれどどうにも、経営者視点が腹落ちしない

note.com

コミュニティマーケティング3原則にもレイヤー構造の視点が不可欠

コミュニティマーケティングを行う上で、よくコンテキスト、トラスト、アウトプットの3つのファーストの話をします。これは、コミュニティマーケティングやコミュ二ティ運営をする方に口酸っぱくお伝えする、成長するビジネスコミュニティ実現のための3原則なのですが、実はこの時点で複数のレイヤーの視点が必要なのです。

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※CMC_Meetup コミュニティマーケティング初級講座(2021/03/24開催)資料より抜粋

この3つは

  • コンテキスト  ←企業、事業戦略(Objective)とコミュニティメンバーの興味、関心軸(What)に紐づいた設定必要
  •  トラスト   ←誰(Who)と初めにトラストを作るべきか
  • アウトプット  ←施策(How)がうまくいっているかを測るKPIの1要素

と、考慮すべき視点が異なるレイヤーに紐づいています。

私としては、この3つを意識することで自然と複数のレイヤーにまたがるコミュニティ設計、運用ができるようになると少し思い込んでいたところがありましたが、どうやらそれは楽観的過ぎたようです。

最近は、ビジネスゴールとコミュニティメンバーの関心軸を合わせたコンテキスト設計(このコミュニティはどこを目指しているのか、の設計)が十分できないまま、メンバーの関心軸のみにフォーカスした設計になってしまいがちな所に、大きな落とし穴があるように感じています。念のため言っておきますが、メンバーの関心軸にフォーカスするのが悪いのではありません。そこ「だけ」にフォーカスすることが混乱のもとになる、ということです。

こうなってしまうと、いくらトラストとアウトプットを積み上げていっても、いつまでたってもビジネスゴールに近づかない、という結果になってしまいます。

また、コミュニティを構成するメンバーを考える上で、立ち上げ初期には「ファーストピン」と呼ばれる人たちの存在が重要ということもよくお伝えしています。

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※CMC_Meetup コミュニティマーケティング初級講座(2021/03/24開催)資料より抜粋

この「ファーストピン」な方々は、単に製品を上手に使ってくれているとか、製品にポジティブな評価をしてているという必要条件的な要素だけでなく、これからコミュニティ施策を通じて増えてほしいタイプの方々かどうかという十分条件の要素も必要です。

どのようなタイプ、状態の顧客にコミュニティに集まってほしいか=OWWHモデルにおけるWhoの設定も、Objectiveと密接にかかわってくるわけです。会社のObjectiveが変われば、Whoの設定も変わる。Objectiveと紐づかないWhoを相手にしていては、コミュニティ運営手法がいくらきちんとできていても、そのビジネスおけるコミュニティの存在が難しくなってしまいます。これに関しては、ビジネスのピボットに伴い既存コミュニティをクローズしたベルフェイスさんのブログに、その顛末が詳細に書かれています。

結論
コミュニティに大事なものは目的だ
いや、もはやコミュニティ以外のすべての施策においてとても大事です。
Who、誰に対して提供するかの大上段の基、活動のコアとなるユーザーと我々が目指すべきVISIONとやっていく意義。これらが何らかの形でブレてしまうと崩壊します。

note.com

 

では、コミュニティマーケティング推進者に求められるスキルは?

これは昔からよく聞かれる質問で、以下のように答えています。

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※CMC_Meetup コミュニティマーケティング初級講座(2021/03/24開催)資料より抜粋

この5つの能力は、以下のように分類できます。

a) 信用力、製品愛:コミュティメンバーとのやりとりで必要な能力

b) 調整力、(マーケティング)ファネルの理解:社内のステークホルダー向けに必要な能力

c) 言語化能力:対社内(ステークホルダー)、対社外(コミュニティメンバー)双方に必要な能力

 

私としては、この5つの能力を「コミュニティマネージャー」が併せ持つのが理想だと思ってきたのですが、実際の例を見ると a) に偏っていることが多く、b) や c) について苦労している例が多くみられるようです。

ただし、これ自体は悪いことではありません。というのは、a) の能力というのは、あとから習得するのは結構難しいのに比べ、b) と c) の能力は後から学んで習得できるものなので、a) を満たす人であれば、後からb) c) を習得するプロセスを組めばいいわけです。

ですが、現実は、b) c) をバックアップしたり、トレーニングしてくれる人がいないままコミュニティマネージャーにすべてが任され、孤立していくというケースが少なくないようです。

これは、最近聞くようになってきた、コミュニティマネージャーの「後継者問題」も、同じ課題をはらんでいるように見えます。初代の(成功した)コミュニティマネージャーの人が、a) b) c) が全部できていた状態から、次の担当への代替わりが、b) c) の能力確認やトレーニングが十分でないまま行われてしまうと、社内のステークホルダーへの説明や協力が滞り、いつのまにか活動が袋小路に陥ってしまいがち。

ここでの解決策は、a) b) c) 全部を兼ね備えた人を探すよりも(いればもちろん最適な人、です)、b) c) を上司やチームがバックアップやトレーニングできる状態を目指した方が現実的であるといえるでしょう。こうした体制をとることで、「レイヤー構造の落とし穴」にはまる確率を下げていくことができると考えています。

最近、コミュニティマーケティングを支援するITツールや人的サポートサービスも増えてきていますが、それを活用する上でも、自社の担当者・部門は a) b) c) のどの能力を備えているかで、必要なサポートが変わってくるはずです。このあたりの見極めも、コミュニティマーケティングを成功させるうえでは重要になってくると思います。

コミュニティマーケって難しそう。やる価値あるの?

ここまで読んで、「なんかコミュニティマーケティングって難しそうだな、ホントにやる価値あるの?」と思う方も多いかと思います。ですが、AWS時代のJAWS-UGをはじめ、自分が経験してきたことだけでなく、ますます顧客理解や、想起されるブランド、商品づくり、顧客からのフィードバックループの構築が求められる時代には、コミュニティの重要性は全社的に増すばかりだと思います。

そして、コミュニティに取り組む部門も、従来はマーケティング部門やカスタマーサクセス部門が多かったのですが、最近はインサイドセールスの文脈でもコミュニティマーケティングに注目する流れがでてきています。

インサイドセールスの”白本”「インサイドセールス 訪問に頼らず、売上を伸ばす営業組織の強化ガイド」の著者や、Inside Sales Conferenceの仕掛け人としても有名な、ビスリーチ・茂野さんも、2022年は自社サービスのHRMOSで、さらにコミュニティ施策に力を入れると宣言。

下記の抜粋にも書いていらっしゃいますが、コミュニティとそれが提供するエコシステムそのものが、顧客に提供する製品、サービスの不可欠な要素になる、というのは私も強く同意するところです。

インサイドセールスはこれからコミュニティに関わるようになる」と書かせていただきましたが、本当にそんな時代がきていると思っています。ツールベンダーが提供するものは製品から、製品とサポートへ、製品とサポートから製品とサポートとコミュニティへ、そしてエコシステムをいつか提供することになるのではないか、その変化の始まりなのではないかと考えています。
次の時代はコミュニティ、です。

note.com

既存ユーザー主体のTrailbrazerというコミュニティ施策(主管部門はカスタマーサクセス)で成功しているセールスフォースも、TrailBrazerとは別スキームでインサイドセールスチームが新たに「コミュニティマーケティング」の手法をこの数年取り入れてきています。

私たちスタートアップ戦略部の活動内容を一言で表すと「コミュニティマーケティングによる見込み顧客のナーチャリング(育成)」となりますが、一番大切にしているのは、これから成長期に入るであろう「未来のお客様」に対し、有益な情報をお届けし、セールスフォース・ドットコム「ファンになっていただく」こと。

www.wantedly.com

マーケティングやカスタマーサクセスだけでなく、営業活動をしているチームからも、コミュニティへの期待値が高まったり、コミュニティがベンダーが顧客に提供する価値そのものになる、という流れが生まれてきていることからも、その価値が増すことは間違いないといえるでしょう。

コミュニティマーケティングを行う部門はどこがベスト?

先に記載したとおり、これからコミュニティマーケティングにかかわる部門や担当者gはまずます拡がっていくと思います。一方で、顧客から見て、ひとつの会社、ビジネスに様々なタイプのコミュニティと運営チームが存在するのには懸念もあるかと思います。

私としてはObjectiveに沿っていれば、どの部門が手掛けてもいいとおもいますが、複数部門が絡むと全体最適がなかなか難しいところもあります。特に企業規模が大きい場合はそうですね。

理想的にはマーケティングインサイドセールス、カスタマーサクセスを横断的に見ることができるポジションの下(例えばCRO配下)に、コミュニティ施策を考えるチームがいるのが良いかな、と思っています。そもそもコミュニティマーケティングは、顧客との接点を起点に様々なレイヤーやファンクションに関わることが多いので、その活動範囲はかなり組織横断的であるからです。

そのような全社視点の組織を作れなくても、Objetiveにきちんとそった設計、運用、評価と、適切な担当者、チームのアサインができれば、実行部隊はどこにすべきか、というのは二の次のように思います。

そして、繰り返しになりますが、コミュニティマーケティングの担当者(部門)に求められるのが、社内外ステークホルダーへの説明能力。

ここは、ほかのマーケティング手法や営業施策などのように、「確立した」評価方法が定まっていないという現状があります。

が、これは評価できないわけではなくで、個々のケースでコンセンサスを取るのに手間がかかるということだと理解しています。ここに客観的な評価手法が出てくると、その手間も解消され、もっと多くの企業でコミュニティマーケティングを実施=顧客と向き合ったビジネスがしやすくなると思います。

ここでは、コミュニティの評価手法を確立すべくMBA取得を目指す、Asanaの長橋さんのチャレンジに期待大、です。

コミュニティがビジネスに有効であることとその成功要因を研究するなら、大学院で正しい研究手法や経営学を学びながら、論文を書いてアカデミックな裏付けを得るのが、一番説得力があるのではないか?そう思い至り、「大学院でコミュニティを研究する」というアイデアがパズルのピースのように自分の中でぴったりとハマったのです。

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皆さんとの集合知を! 

長橋さんのMBAチャレンジの成果を私たちが共有いただけるのは、早くて2年先、ということになると思いますので、それに先んじて、コミュニティマーケティングにかかわる当事者である私たちも、この課題への知見を共有し、言語化、抽象化していく活動が必要だとおもいます。そんな場に、CMC_Meetup が活用されるよう、今年もいろんな場を提供していこうと思います。

www.facebook.com

2022年1月25日に開催されるCMC_Meetup では、事業戦略(今回のブログでいうところのObjectiveに近い部分)とコミュニティの関係性について、フジテックリンナイ日本IBM講談社NTT東日本といったエンタープライズな企業のスピーカーの方々がお話いただけます。

eventregist.com

Objective 視点でコミュニティ活動を考える良い場になると思いますので、このブログに関心いただいた方は、ぜひご参加を、そして参加して得た知見やアイデアをブログなどのカタチでアウトプットして更なる集合知の形成にご協力ください

レッツ・アウトプットファースト!

-- 2022/02/05追記 ---
上記で紹介した、CMC_Meetup Vol.20 の動画アーカイブ、ツイートまとめは、こちらでご覧いただけます。
■セッション動画アーカイブ

www.youtube.com

■ツイートまとめ

togetter.com