マーケティング、エバンジェリズム、ときどき旅。

ホントに自分がなりたいのはマーケターかエバンジェリストか、はたまた旅人なのかを徒然に書いていくブログです。

日本のサマータイム導入は誰得?

オリンピックにリンクすると、なんでも通ると思っているのか、急に降ってわいた(ように見える)サマータイム騒動。自分的には、かなり「スジが悪い」と思っている施策なのですが、NHK世論調査等をみると、現時点(2018年8月13日)では必ずしもそうではない人も多いようです。なので、なぜサマータイムは「スジが悪い」と思っているのか、整理して書いてみます。

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夏だけではない、海外の「サマータイム

まず、ファクトとして世界ではどのようにサマータイムが運用されているのか整理しておきます。

アメリカではサマータイム(Summer Time) とは呼ばず、Daylight Saving (DST)と呼ぶように、日照時間を有効に使おう、というものです。もともとはベンジャミン・フランクリンが提唱し、第二次世界大戦中に本格導入されて現在に至るわけですが、導入の主目的は省エネ、ということでした。(電気をつけて活動する時間を減らそう、という意図)

ヨーロッパではSummer Timeと表記することが多いようですが、アメリカと同様に日照時間の節約、が主目的です。その証拠にアメリカもヨーロッパも適用期間が3月末から10月末と長い(南半球では10月~4月 ※ブラジルは~2月)ということで、今回日本で言われる「暑さ」対策とは出発点が異なっています。はた目から見るとDSTの期間のほうが長いので、コチラを標準時にしても良いのでは、と思うくらいですね。

この辺りの情報は下記のサイトにもまとまっているので、ご参考までに。

サマータイムについて

実際、サマータイム期間中にアメリカに出張したりすると、仕事の後も外が明るくて、同僚と食事に行ったりしたときにもQuality of Lifeを感じたりするわけですが、これは大体の業務が18:00頃に終わるという海外の終業時間状況を考慮しないわけにはいきません。

もし、日本で同じ状況になるためには、サマータイム導入前に18:00や19:00に仕事が終わる習慣ができないといけないわけですが、これは今回のサマータイム導入とは連動しないお話ですね。 

薄すぎるサマータイム導入メリット

意外にも、日本でもサマータイム導入は何度か試みられたことがありますが、いずれも定着せずに廃止、または法案提出に至らずとなっています。

平成に入ってからの省エネを目的にしているわけですが、その効果についてはなかなかメリットを証明できておらず、結果的に法案提出にさえ至っていません。先ほどの サマータイムについて の中にも、下記の記載があります。

最近、東日本大震災と福島第1原子力発電所の事故に伴う電力不足の関係で、サマータイムの効果について2つの試算が公表されています。一つは、電力中央研究所の今中健雄主任研究員によるもので、「サマータイム」の需要削減効果は薄く、7月の平日に2時間営業を早めても削減効果は62万キロワット、8月の平日に2時間早めても88万キロワッ トと試算しており、休日シフトの5分の1程度となっています。もう一つは、産業技術総合研究所の研究員によるもので、サマータイムにより、すべての人々が生活時間を1時間前倒しすると、14時の電力需要が抑えられる一方、帰宅によって16時に家庭での電力需要が増加し、業務と住宅を合計した最大電力需要は引き上げられる可能性があるという試算になっています。2つの試算ともに、サマータイムについては、電力需要に関して、あまり効果がないという結論でした。

経済的なメリット(省エネ、消費額向上の双方)が不明確、また国民自身から導入の機運が高まっていないところを見ると、そもそもサマータイム導入のメリット自体が疑わしいです。次項にデメリットについても挙げてはいますが、そもそもメリットが薄すぎるのでは?

考えられるデメリット

一方で、デメリットについては下記の内容が挙げられます。

<健康問題>

まず、夏の2か月だけ、「実質2時間早起き」を強要するのは、生活リズムに大きな変化をもたらします。特に子どもには影響が大きいかと。受験生を抱える親御さんの気持ちとしては「やめてくれ!」というのが共通した思いではないでしょうか? この時期にリズムを崩してしまうのは、いい事一つもありません。

2012年に日本睡眠学会がまとめているこちらのレポートを読むと、より広範囲は健康問題について理解することができます。せひ読んでみてください。

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http://www.jssr.jp/data/pdf/summertime_20120315.pdf

ちなみに、このレポートでまとめられている健康問題は「1時間」のサマータイム実施での想定です。今回報道されている通り、「2時間」の時間変更の場合、影響度合いはもっと大きくなります。

 

<「お試し」するには高すぎるシステムの移行コスト>

サマータイム導入に肯定的な人のブログなどや論調などをいくつか読んでみましたが、皆さんシステム移行に関するコストについては、少し楽観過ぎると感じます。

blogos.com

news.yahoo.co.jp

お手元のPCの時間設定を直すだけ、と思っている方も多いと思いますが、それほど簡単な仕組みでは世の中動いていません。ピタゴラスイッチ的に連携しているシステムの途中に2~3個「対応不可」や「うっかり設定もれ」があっただけで大混乱です。

で、これを完璧にやり遂げたとして(無理ですけど)、そのコストに見合うメリットがホントにあるんでしょうか? その結果出現するのは、2時間時間が前倒しされた以外、ほとんど状況の変わらない世界=生産性も変わらない世界です。

海外ではサマータイムに各種システムが対応できているではないか、という人もたまに見かけますが、そもそもITでシステムが構築される前から、サマータイムが実施されている国のシステムと比べても意味がありません。日本ではシステム設計時にサマータイム的な要素は考慮がなされていないものが多数を占めるわけですから。

バックデータについては少々ざっくりしていますが、システム移行にかかるコストについては立命館大学の上原教授によるスライドも参考になるかと。主要インフラの対応だけで、約3,000億円と見積もられています。

www.slideshare.net

 

<ITの経済効果≒機会損失>

このシステム移行の費用なども含めて、「経済効果」とみなす人もいるようです。たしかにシステム移行コストを誰かが負担する、ということになれば請負側にとっては「経済効果」と言えなくもないですが、その結果は前述した通り生産性が大きく変わるものにはなりません。このコストを本当に生産性向上することに投資したほうが、よほど前向きな施策ではないでしょうか? 予算もIT人材も不足気味な中でサマータイム対策でIT投資がかさむほど、他の成長機会の損失になるということです、つまりサマータイムは、全体のパイを大きくする特需とはならないばかりでなく、多くの成長機会もつぶしてしまう事になりかねません。

 

<東京以外の地域への影響>

緯度が高く、標準時の経度よりずっと東に位置している北海道東部エリアなどは、サマータイムの時間と実際の日照時間が釣り合ってよさそうに見えますが、西日本や九州、沖縄ではデメリットのほうが多くなると思います。沖縄に至っては8月の日の出時刻が6:00am位なので、2時間のサマータイム実施になると、夏にも関わらず日の出が8:00am 位になるわけです。これってあまりいい状況ではないですねー。もちろん暑い時間の行動時間が長くなりますので、電力消費は上がるはずです。

サマータイムごっこ」をやってる場合か?

今の日本は、人口減少により不可避な「国内経済の縮小」、「限界地方都市の加速的な増加」、「移民、越境ビジネスへの対応」といった待ったなしのアジェンダが目白押しです。そんななか、この導入効果の薄い、そしてコストのかさむサマータイム導入を議論している余裕があるのでしょうか? 

もっと大きなアジェンダが山積みで、納税者としてはこちらに対応してくれる政党、政治家に活躍してほしい気持ちでいっぱいです。超党派サマータイムを推進するという動きもあるようですが、そのメンバーは全員大局が見えてないと、納税者としては思わざるを得ません、これは私だけが思うことではなく、多くの納税者の方が同感なのではないでしょうか? そうであれば、サマータイムを推しても票にはつながらないということをもっとはっきり伝える必要がありそうです。

誰が何のためにサマータイムを推しているのか?

私が考える限り、サマータイムを押して得する人は凄く少ないと思いますが、報道や過去の事実で把握する限り表に見える推進者は、

・五輪組織員会

のみのように見えます。ここに(なぜか)サマータイムを推進したい国会議員の方がいるという構図なのかもしれません。

経団連

も、2012年に自民党サマータイムを申し入れた事実ありますので、全体としては肯定派と考えても良いでしょう。ただし、今回は表立って起案側にいるわけでは無いようにも見えます。ただ、どうしてもわからないのが「何のため」に推進したいのか、というところです。報道にあるようにオリンピックのマラソンの出走時間云々であれば、出走時間のみ調整すればいい話です。誰かが言ってましたが、東京で行うのが気温的に問題あるなら、北海道とかで走ってもいいはずです。逆に、「東京オリンピック」なのに、なぜ北海道や沖縄も含めた日本中の時間をいじる必要があるのか? で、このオリンピック問題を除けば、今、このタイミングで、サマータイムを導入して誰が得するのか、本当に不思議です、

一方、世論にもサマータイム導入に肯定的な人が意外と多いようで、NHKの調査によると過半数の人がサマータイム賛成とのこと。

この数字は、きちんと受け止める必要がありますが、おそらく導入に関わるコストや東京以外の地域の混乱について、きちんと理解していないだけではないかと想像します。「なんとなく」面白そうな話のように思っているのかもしれませんが、それに伴い支払わなければいけない負のコストがきちんと説明されていないというのは健全な状況ではありませんね。

で、この不健全な状況が変わらなければ、「サマータイムを世論が支持している」というシグナルに感じてしまうと、この流れに乗ろうとする団体や議員がどんどん出てくるかもしれません。私としては、前述してきた通りそれは避けたいなと思うわけです。

サマータイム導入で「日本の残り時間」を浪費しないためにできること

もし、皆さんが私と同じようにサマータイム導入は良い施策ではないと考えるのであれば、上記の人たちに正しいシグナルを送るのが重要かと。経済関連の人には「労多くして益少なし」、政治家には「票にはつながらない」、そして一般の周りの人たちには「大事な問題が先送りされる」ってことを伝えるのが大事ですね。ということで、そんな皆さんにできそうな次の一歩について、下記にまとめておきます。特に個人についてはどれも簡単にできること、です。

<個人ができること>

  • 周りの人に話す:ぜひご家族や周りの同僚になぜ不合理なのかお話してみてください。

  • コメントを政党に送る:例えば自民党でしたら下記のサイトから意見を送れます。
    自民党へのご意見 | ご意見・ご質問 | 自由民主党
    ※ただし、タイトルが過去に誰かが書いたタイトルと同じだと「既に投稿されています」というエラーが出る謎仕様(笑)です。「サマータイムについて」とか書くと間違いなくエラーになるので、そのあとに日付やイニシャルでもつけてユニークなタイトルにするようにしてください。

  • ツイート、ソーシャルで意思表示する: 今のところ #サマータイム反対 というハッシュタグが一番ポピュラーなようです

<団体ができること>

  • 複数会社が連名で意思表示する:特にスタートアップ界隈や、IT関連の団体が声を上げるのが世間から見つけられやすいと思います。政治的なメッセージはどうも、、、と思う方もいらっしゃるかと思いますが、これは生活に直結する話なので、十分声を上げるのに値する話かと。

  • 業界団体で意思表示する:経団連以外のどこか。。。

数年前と違い、ソーシャルの進展により、皆が考えていることを束ねて意思表示することができる時代になりました。これは社会のためにならない、と思うことがあればぜひ一歩行動してみてはいかがでしょう?

私としては、身の回りにある沢山の電波時計が役立たずにならないのを願っています。

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