マーケティング、エバンジェリズム、ときどき旅。

ホントに自分がなりたいのはマーケターかエバンジェリストか、はたまた旅人なのかを徒然に書いていくブログです。

「アレクサ、エコシステムを作って!」-- Alexa Day 2018 参戦記

おそらく日本では初めての、アレクサのユーザー、デベロッパーによる大規模カンファレンス Alexa Day 2018 が2月11日(3連休の中日)に神戸市で開催されました。

alexaday2018.jaws-ug.jp

私もこちらに登壇枠をいただいたので、東京からシアトルのコンビニに立ち寄って(笑)で参加してきました。
これは「コミュニティ主導」による、VUI(ボイス・ユーザー・インターフェース)のビジネスエコシステムが日本で大きく動き出したことを示す象徴的なカンファレンスだったの思うので、まとめてみます。

そもそも、アレクサ(Alexa)って何? という方はまずは、こちらの記事をご一読いただいてから進んでください。

wedge.ismedia.jp

 

地方/有料/コミュニティ主催で、300人来場と1,000を超えるツイート

まずこの事実がスバラシイですね。こうした大き目のユーザーカンファレンスは、人が集まりやすい東京周辺や、メーカーからある程度のサポートを得ながら実施されることが多いと思います。今回のカンファレンスは完全にこのパターンの逆を行っています。

  • 東京開催 → 地方開催
  • メーカーサポート → ユーザーコミュニティが100%運営(アマゾンはスポンサーにもいなかったはず)
  • 無料 → 有料イベント(当日:3,000円 ※営利目的ではなく会場費や印刷費等のコストへの充当用)

更に開催日は3連休の中日、とふらっと参加するにはハードルが高い要素が揃っていましたが、それにも関わらず神戸に300人以上の人が集まってのカンファレンス開催。もし、東京開催でメーカーサポートも(告知や運営で)それなりに受けていたら、おそらく800~1,000人位集めることも可能だったと思います。今回の300人の参加はそれぐらいのインパクトがあると考えてよいと思います。

 

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「ファーストピン」の集まりならではの熱量の高さ

セッション内容もパルコさんや大手SIによる金融機関向けの事例に始まり、自作Echo(kokexa)を作った個人デベロッパーの例やCerevo岩佐さんによるアレクサ(AVS)家電のお話し(家電メーカーの方必見の内容でした)など、カバレッジも広く、クオリティも高いものでした。

ascii.jp

 

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セッションだけでなく、参加者からの質問やコメントも多く、ツイート量は1,000を超える数字に。

togetter.com

実は、この「熱量の高さ」は、上記の3つのブロッカー(地方開催、メーカーサポート無し、有料)があったからこそ、醸成できたのではと思っています。東京で開催される無料イベントで、話題のアレクサがテーマであれば、大量の(私がワナビーズとよぶ)「クレクレ君」を呼び寄せてしまい、この熱気にはつながらなかったかもしれません。神戸への交通費、宿泊費をモノともせず(私ももちろん車代とか講演料とかいただいていません)、3連休の中日に参加という難易度の高い家庭内稟議を通し、アマゾンの出荷ポリシー(抽選制)によってまだ手元にEchoがない人が多いという壁の高さにもかかわらず、VUIの将来性=ビジネス性と、純粋にアレクサのテクノロジーとしての面白さにひかれて集まった人たち=ファーストピン(後述)だったからこそ、ノイズが少なくインプット、アウトプットを楽しめる場として機能したのではないかと思います。

コミュニティ拡大はたき火の熾し方に似ている

私はこうしたコミュニティが持つ熱量の拡大のステップを、たき火の育て方に例えて話すことがあります。ようやく火が付いた種火に供給しなければいけないのは、すぐに一緒に燃えることができる木(よくかわいた木、枯れ枝など)であり、間違っても乾いていない生木や草を投入してダメですよね。コミュニティの種火を「ロールモデル」だとすると、よく燃える乾いた木は「フォロワー」であり、投入するとケムリにしかならず火を消してしまう生木や草やクレクレ君=「ワナビーズ」というわけです。今回は種火と枯れた木がいいバランスで集まったことで、大きなたき火に成長した、というふうに見ることができます。

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このロールモデルやフォロワーの方々が、コミュニティ拡大のカギとなります。よく私がコミュニティマーケティングでお話する Sell through the community モデルをボーリングに例えた時の「ファーストピン」となるわけです。

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エコシステムの重要性

今回のAlexa Day 2018での私の登壇枠はパネルディスカッションでした。この中で「VUI関連のビジネスでは誰と組むべきか?」というお題がありました。私は以下のように答えました

  • 新しい技術やビジネスの立ち上がり時期は、誰が適切な相手かは「看板」や「資格」で判断できないので難しい=既存の方法ではマッチングしづらい
  • 一番いいマッチングシステムは、コミュニティ。初期にコミュニティに参加している人、企業はマッチング対象となりうる
  • コミュニティで良いアウトプット(発表、デモ、情報公開)をしていると、マッチング相手から見つけられやすい
  • このマッチングシステムの参加者が多いほど、よりニーズにあったマッチングが成立=コミュニティの大きさが、マッチングを加速

つまり、この当日参加している人や企業の中に、マッチング相手はいるし、こうしたコミュニティ、エコシステムがない技術や製品はマッチングが難しい=ビジネスの立ち上がりが遅い、ということになります。

このやりとりを現場で聞いていた、某東証一部上場企業CIOの方のツイートがこちら

 

ところでアレクサってそんなにいいの?

パネルでは「VUIは今後来るか?(ビジネスになるか?)」というお題もありました。私を含めた3人のパネリストは全員「間違いなく来る」と回答、もっというと3人とも「7-8年前に、あんなもの使えないという評価をされがちだったクラウドの立ち上げ期に似ている」という意味のコメントをしました。そう、クラウド以降の流れを見るとAIが絡んだVUIが普及するのは不可避な流れだと思っているのです。
なぜ、VUIが来ると思っているのか、私の理由は以下の三つです

  • 「自然」に使える:よくよく普段の生活を振り返ると、音声で何かを頼む(今は頼む相手が人間であることが多いですが)シーンがすごく多いですよね。むしろキーボードでしか入力できないシーンのほうが不自然とも言えます。キーボードフリーになると、ITリテラシーに関係なく、子供やキーボードに馴染みのない高齢者などの入力も受けられるようになるので、入力対象者がグッと広がることになります。「バリアフリー」的にもイイですね。
  • 「ながら」が可能:音声インターフェースはながら作業に向いています。料理をしながら、PCで作業をしながら、運転をしながら、機械の修理をしながら、などいわゆる手がふさがっている状態で利用できるという利便性だけでなく、何かの作業中でも「使ってもらえる」というのは大きなアドバンテージです。今、様々メディアやガジェットが24時間しかない人の時間の奪い合い(シェアの取り合い)をしているわけですが、VUIであれ他のものに時間を取られているところにもスッと入り込むことができます。時間の奪い合いの観点からすると、これは大きなアドバンテージです。
  • AIの「学習データ」としての価値:今、AIをめぐるプラットフォーム争いが激しくなっています。ここでこぞってプラットフォーマーが注目しているのが、AIを教育するための「データ」です。以前は、グーグルが「検索エンジン」という圧倒的なテキストデータを吸い上げる仕組みを使って優位に立っていましたが、取集データの範囲はテキストだけでなく、画像や映像へ広がり、それが音声にも広がっているのが現状です。なので、アマゾンのみならず、グーグル、マイクロソフト、アップルといったグローバルプラットフォーマーがどんどん「AIスピーカー」的な仕組みを出してきています。この世界的な投資が、VUIの新しい使い方を生み出し、普及が加速していくと思われます

ここまではVUIが今後来る! と私が確信している理由ですが、ではそのなかでなぜアマゾンのアレクサが優位と思っているか? それは前述した「エコシステム」をアレクサがいち早く構築しているからです。米国でのアレクサのエコシステムの大きさは、既に様々なメディアで伝えられている通りですが、日本でも言語対応やスピーカー発売でLINE、グーグルの後発(まだ出荷調整中ですし)であるにも関わらず、こうしたコミュニティのうねりがいち早くみられるというのは、現時点で競争優位になっているといえるのではないでしょうか?

What’s next?

今回のイベント主催側には、実は「アレクサユーザーグループ」的な名前のコミュニティは存在していません。アマゾンのクラウドサービス AWSのユーザーコミュニティである JAWS-UG のメンバーのなかで、このアレクサに可能性を感じた人や、既にビジネスとして取り組んでいる人たち(この日本最大のクラウドユーザーコミュニティ:JAWS-UGがアレクサのコミュニティの母体にある、というのは日本では大きな強みとなっているわけです)が中心メンバーとなっています。普段の勉強会や情報共有を通じてアレクサに関する情報を過去1年以上発信し続け、特に発信の多かったJAWS-UG神戸に所属する人たちが中心になって、今回のイベントの企画を立ち上げ、そこに全国のJAWS-UGの有志が参加してきて運営の母体ができたようです。なので、ちゃんと地道なコミュニティ活動の結果が適切なタイミングで花開いた、と言えると思います。
今回のイベントで初めてこうしたコミュニティに触れた人も多かったのではないかと思いますが、そうした新たな参加者をどんどん取り込みながら、正式に「アレクサ」の名前を冠したコミュニティができるのでは? と思っています。
この名前が更に求心力を増して、日本のアレクサコミュニティ、エコシステムが一気に拡大しそうですね。もちろん私もこの波をちゃんと捉えていきますよ。